誰も住んでいない実家を放置している所有者にとって、今最も法的トラブルの引き金となっているのが「庭木の越境(隣家へのはみ出し)」です。台風の季節になると「枝が隣の屋根や電線に当たっている」「落ち葉が雨樋を詰まらせている」「毛虫が大量発生して洗濯物が干せない」といった苦情が役所や近隣住民から寄せられます。
これまでは、民法第233条の規定により「隣の土地から根っこが越境してきた場合は勝手に切って良いが、枝が越境した場合は所有者に切らせなければならない(勝手に切ると器物損壊罪になる)」という極めて理不尽なルールが存在していました。しかし、空き家放置問題の深刻化を受けて2023年4月1日より民法が抜本改正されました。
新民法のもとで隣人が枝を自ら切除した場合、その伐採・剪定費用は誰が負担するのでしょうか?法律上の原則は明確です。
民法第702条(事務管理による費用償還請求)に基づき、「かかった伐採費用・処分費用は、全額樹木の所有者(空き家所有者)に請求できる」とされています。つまり、放置していた所有者は、隣人が手配した造園業者や便利屋の高額な請求書(10万〜30万円等)をそのまま後から請求されることになります。
もし強風で庭木が倒れ、隣の家の外壁や駐車中の高級車を破損させた場合、あるいは通行人に怪我をさせた場合、民法第717条(土地工作物責任)により、所有者に過失がなくても数百万〜数千万円の損害賠償責任が発生します。空き家であっても管理責任から逃れることはできません。
クレームや損害賠償に発展する前に、自主的に伐採・剪定を行う場合の費用相場は以下の通りです。
| 作業内容 | 樹木の高さ・規模 | 1本あたりの費用相場 |
|---|---|---|
| 低木の剪定・伐採 | 高さ 1m 〜 3m未満(手の届く範囲) | 3,000円 〜 5,000円 |
| 中木の伐採 | 高さ 3m 〜 5m(2階の窓程度) | 10,000円 〜 20,000円 |
| 高木の伐採(大木) | 高さ 5m以上(屋根を超える巨木) | 25,000円 〜 50,000円 / 本 |
| 抜根作業(根っこごと掘り起こし) | 幹周り 30cm 〜 50cm | 15,000円 〜 35,000円 / 本 |
| 敷地全体の草刈り・草むしり | 敷地 30坪 〜 50坪 | 20,000円 〜 40,000円 |
費用を安く抑えるポイントは、根っこを残して地上部だけを切る「伐採(地上部切り)」にとどめ、高額になりがちな「重機抜根」は解体時や売却時まで保留することです。また、切った枝葉の処分代(産廃運搬費)が別途かかるため、見積もり時に「処分代込み一式」であることを必ず書面で確認してください。
庭木の放置は、近隣住民との民事トラブルにとどまりません。雑草が生い茂り庭木が道路へ越境している空き家は、市区町村から「管理不全空家」または「特定空家」に指定されます。
指定を受けて改善勧告が出されると、住宅用地特例(固定資産税の1/6減額措置)が強制解除され、土地の固定資産税が翌年から最大6倍に跳ね上がります。年1〜2回の定期的な草刈り・庭木伐採を業者に発注(年5万〜8万円程度)しておくことは、年間数十万円の増税を防ぐための最も賢明な防衛策と言えます。
京都を拠点に不用品回収・遺品整理・空き家対策・生活インフラ支援を展開。現場の第一線で培った実務ノウハウと正確な法令・税制データに基づき、暮らしの不安を解消する実践的ガイドを発信しています。